寒さも厳しくなってきたある日。時雨は家の裏でがたがたと騒がしい音を聞き取り裏へ向かった。
そこには、ペンキや墨汁をかぶったのかと思わせるほど真っ黒な鶴が罠にかかっていた。
ちなみに、この罠は仕掛けた本人(紘季)にも仕組みがよくわからない。
それを見た時雨はただ一言、こうつぶやいた。
「……陰摩羅鬼……。」
その呟きは妖怪シリーズ読者なのか知識豊富なのか作者の思いつきなのか。
しかしそう呟いた裏では…。
(いやあれ妖怪だしありえないし。でも形は鶴…でも黒鶴にしちゃ黒いし。というよりも黒すぎだろうこれは。色だけカラスっぽい…むしろカラスと鶴の間の鳥……妖怪並にありえない…。)
目の前の事実をどうやって処理するべきか頭を働かせていた。
そして、黒いし怪しいし何にしてもあまり縁起はよくないだろうという結論に至った。
(…逃がすか。)
時雨は罠を外しにかかった。
しかし、罠が巧妙を通り越しているのか鶴にジッと見つめられているからなのか、罠はなかなか外れない。
最終的には吹っ切れて短刀で罠を切断してやっと逃がすことができた。
あれ、本当に妖怪(つまりは陰摩羅鬼)だったらどうしようかな…。
この考えがあながち間違ってはいなかったと思うのは、ずっと後のことである。
逆転の発想。鶴は余裕で推測できると思います。あとは隙間を埋め込むだけの品。
2004年9月中
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