「かけたまえ」
そう言って創也は紅茶をいれるためにガスコンロのほうを向いた。
でも、和槻は座らないでまずクッションをどけた。そして、クッションをブーブークッションごと創也のいすに置く。
ぼくのほうを向いた和槻は、くちびるに人差し指をあてて「黙ってて」と合図。
紅茶をいれた創也の口から最初に出てきた言葉は、こうだった。
「……クッションは使わないのかい?」
表情には出てないけど、どこまでも予想外の行動を取る和槻に驚いているはずだ。
「ごめん、俺ん家キッチン・トイレ・風呂以外ほとんど和室なんだ。いすがないくらいバリバリの日本家屋風でさ。わざわざ出してもらって悪いけど、薄っぺらの座布団や硬い床に座る方が慣れてるんだ。だから創也が使って」
「そうなのか……」
「創也、座らないのか?」
こみあげてくる笑いをなんとかこらえながら言ったのは、ぼく。
「………」
創也がにらみつけてくるけど、ぼくはそれどころじゃない。
和槻は「なんで座んないの?」って顔でクエスチョンマークを浮かべている。
「……わかったよ、GAME CLEARだ。君の勝ちだよ、和槻柊くん」
創也が負けを認めたのは、じつに30秒が過ぎようとしたときだった。それと同時に、ぼくは吹き出した。
「和槻サイコーだよ!」
「これで創也が座ったら最高だったんだけど惜しい!」
さすがにそれは絶対にないと思うけど、と和槻が続けた。
「しかしよくブーブークッションが仕掛けてあるとわかったね」
「いや、俺さ、前に兄貴にこれ仕掛けられてから、薄っぺらの座布団でも必ずどかして調べるようになっちゃって」
つまり、習慣による偶然だったんだ。(見破られてたわけじゃなくてよかったね、創也)
なんか知らないけどどうしても創也にブーブークッションを仕掛けたくて。何故だ。
シャーロック・ホームズが好きな方はタイトルの由来もわかるかもしれない。
2004年11月中
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