「時雨さ……」
「花月さんですか」
僕は時雨さんに声をかけようとしたが、止まってしまった。
その日、時雨さんはいつもと違っていた。
「その…珍しいですね」
「いえ…ちょっと時間がなくて」
他でもない。時雨さんが体にぴったりしたシャツを着ていたからだ。
ましてや最近はネクタイが多かったのに今日はしていないでボタンを2つ開けている。
僕は死力を尽くしてそっちに目線がいかないように努力した。
「何か御用ですか」
「いっ、いえ。たまたま見かけたから声をかけただけですよ」
「そうですか」
そしてふいっと歩き出してしまう時雨さん。
「時雨さん!」
「なんですか?」
「その、そういう服もいいと思いますよ」
「……それはどうも」
時雨さんはそれだけ言って足早に立ち去っていった。
しかし、どうしても気になってしまった僕は時雨さんの鞄に絃を仕掛けていた――。

その1時間後、無限城ロウアータウンの一角――。
「あれ、鏡はんやないか」
ネタ探しに出ていた笑師が白スーツに紫のシャツの鏡を見かけた。
ただし大きく違っていたのは。
「………えらい重大なことでもあったんやろか?」
その表情はいつになく真剣で殺気が放たれていたことだった。


死力を尽くすか花月。
シャツは赤って案もあったが無難にアニメと同じに…柄はやめてくれ。

2004年11月中


back