「…そういや、葉山から電話あったんだったな…」
携帯の履歴を辿って発信を選ぶ。うっかり着信拒否を選びそうになったとは本人には言わないでおこうと思った。
『霜夜か』
「ああ…用件はなんだ?」
『急いだところで中身は変わらない。数年来なんだからゆっくり』
「こっちは時間がない」
『…本当に変わらないな』
「生活スタイルが違うんだよ」
『そんなものは誰1人として同じ人間はいないだろう』
「あーわかった。もうなんでもいいから用件を言え、用件を」
これだからコイツと話していいことはない。
『じゃあ、そちらに合わせて簡潔に申し上げるとするか…新婚旅行はどうした?』
「…新婚旅行?」
何より簡潔じゃないんだが。
「行ってないが、それがどうした」
『やっぱりな。霜夜はデリカシーってものが落ちている』
「時間がなかったんだよ。その前にわかってて聞いてるだろ、お前は」
『当たり前だろう?』
「次で用件が出てこなかったら切るぞ」
わざとらしい溜息のあとに出てきた言葉は、こうだった。
『旅行に行ってこないか?』
俺は瞬間的に携帯を閉じていた。そして開いてすぐに電源を落とした。
やっぱり葉山刹那を相手にするとロクなことがない。昔も――。
「…何があったんだっけ?」
葉山刹那。現在はとある銀行の重役…だったと思う。外見は多少幼顔で俺より低い身長だったが今どうなっているかは知らない。
基本的に俺とは意見やら考えやらが食い違うことが多いが、どういうわけか高校時代の友人として最初にあげられるのは俺は葉山で向こうは俺なんじゃないかと思う。単にお互いに人間関係ってものを放棄しつつあったというだけかもしれないが。
ヤツは性格にもいくつか問題があったがそれとはまた別に問題があった、ような記憶がある。ただ、それがはっきりしない。
なんかあったからもみ消したくなったんだろうが、それが不便になるとは思いもしなかった。


『腐れ縁』っていうのが1番順当な表現なんじゃないだろうか、この2人。もちろんまだ続く。

2005年3月中


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