「わたしのこころがそらならばー、かならずましろなとりがまう〜、とりよ〜とりよ〜とりたちよ〜、とりよ〜とりよ〜、とりた「五月蝿いですよ」
「そんな絶妙なとこで止めなくたっていいのに…」
銀色に輝く羽を回しながら歌っていた紘季を「絶妙なところ」で止めたのは彼の同居人だった。
「銀色の鳥なんていたっけ?オレ思いつかないんだけど」
「いたとしても日本には生息していないでしょうね」
「誰かのペットって線は?逃げちゃったとか」
「このような場所でそこまで輝きを損なわないというのは難しいでしょう」
「でも質感とか本物っぽいんだけどなー」
「近年の技術の発展を考えればその程度の事は簡単ですよ」
「じゃあ上昇気流やビル風でぶわぁっと上がってきたとか?」
「高層マンションのこれほどの高さまでですか?」
「考えにくいかー…」
テーブルに羽を投げ出し体勢を崩す紘季。お手上げ、とでも言いたいのだろう。
「じゃあなんでこれベランダに落ちてたの?」
「落ちていた、と言うよりは落ちてきた、でしたよ」
「っていうかなんで蔵人窓開けてたの?あとなんでこれ拾ったの?」
「……何故ですかねぇ」
「えっ、まさかちほ「どうかしましたか?」ナンデモゴザイマセン!」
日本語を習ったばかりの外国人のような発音で敬礼する紘季だった。
「なんとなくそんな気分だったとか、そんな感じ?」
「恐らくは」
「ふーん…まあいいや」
自分で持ち出しておいて…とは紘季を相手にすれば誰でも思う事だ。
「そういや霧生さんが教えてくれたんだけどさー、鳥を飼ってたら風切羽を切らないといけないんだってね」
「飛んで逃げてしまいますからね」
「そうなんだけどさ、なんか可哀想じゃない?もしこの羽が風切羽だったら地面にまっさかさまで銀色どころか血まみれだよ」
「人間が切るかアクシデントでもない限り風切羽が切れることはないと思いますよ」
「もしもの話なんだから揚げ足取らなくたっていいのに…」
横を向いてすねる紘季。空中に「の」の字まで書いている。
「蔵人はさ、飛べなくなって可哀想とか思わないの?」
「摂理であり道理ですからね」
「ふーん……っていうか訊いたオレが間違ってたような…」
「何か言いましたか?」
「きっと気のせいだと思う!!」
「そうですかv」
ほっとした後、「あれ、オレ遊ばれてない?」と首を捻る紘季だった。
「カンがいいわねー、紘季君」
高層マンションの屋上。銀色の髪と瞳の人物が立っている。
「確かに風切羽なんだけど、あれじゃないとどこにあるかわからなくなるからねー」
それに、私の場合すぐに『戻れる』し。
その言葉は、銀色の翼に乗って飛び立っていった。
「もっとも、この世には手段があろうが動くことをやめてしまったモノもいますがね」
「ん?なんか言った?」
「いいえ」
奇妙な話系統になったような…なんだこりゃ。
お題の風切羽にと思ったが出せないもんだから流されてしまった哀れな品。
2005年4月中
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