一応熱海行きを予定していたその土曜日の9時過ぎ。
ただし、行く予定がないから準備もしていない。
俺は勿論、憂も起きてから時間が経っていないから朝食を目の前にぼーっとしている。時雨に至ってはまだ起きてもいないと思う。
そこに。
ピンポーン
……こんな時間に客か。
俺は椅子から立ちインターホンに出る。
「はい……」
『お久し振りです、蓮藤先生』
「………」
記憶を呼び起こして検索をかける。
「…新瀬か」
『そうです、世楽新瀬です』
「誰」
「教え子」
インターホンの受話器を戻して玄関へ行き、ドアを開ける。
ドアの向こうには俺とそう変わらない身長の男が立っていた。
世楽新瀬。去年の今頃まではまだ顔を合わせる機会があったから記憶も新しい。(尤も、機会があっただけで実際に会うことはなかったが)
「今年20になるのか」
「はい。御陰様で今は神奈川の大学に行ってます」
「まあ、それはいいんだけどな。お前は常識あるから連絡もなしにこんな時間に来るなんてことはない筈だ」
どういう訳か普通じゃない部分もあったりするが、うちの学校の中では普通な方だったと思う。
「それは……」
言葉を濁す新瀬。ドアの裏側を気にしているのが俺にもわかる。
「もういい、新瀬。ここまで来れば蓮藤に逃げ道はない」
その声を聞いてすぐ、俺はドアを閉めた。
が、新瀬の腕が入ってきてそれは阻止された。
「新瀬!このままだと腕が千切れるぞ!」
「でも、僕も大人しくしてるわけにはいかないんです」
「それよりなんで新瀬が葉山と一緒にいるんだよ!」
その声は間違えもしない。いっそ忘れたい位なのにここ最近で聞き慣れてしまった葉山刹那の声だった。
「それは勿論、新瀬がいた方が確実になるからだろう」
「そういう意味じゃねぇよ!」
わかってて言ってるだろ、お前!
「蓮藤先生は僕のいたクラスの担任にならなかったから、刹那さんと会う機会がなかったんですよ」
「……いやまさか、そこにいる身長170センチもないようなヤツに限ってDNAが負けるなんて俺には到底考えられない」
「蓮藤…」
「それ以前に血繋がってないだろ」
実の親子だとしたら似てないにも程がある。性格とか顔とか背とか身長とか身の丈とか。そもそも名字が違う。
ただ、新瀬が「普通じゃない」理由はわかったかもしれないが。
「資金援助且つ保護者といったところだ」
「牛耳るの間違いだろ」
「どうとも取ればいい。肝心なのは本人がどう思うかだ。しかし、このままでいいのか?」
「何がだ」
「先生、刹那さんこの通りだから」
「新瀬、この通りとは具体的にどんなものなのか後で聞かせてくれ」
「しかも精神的でしつこいんだろ」
「そうなんです」
「多少悩む時間を設けてた方が少しは印象がよくなることを」
「お前黙ってろ葉山!」
「刹那さんちょっと黙ってて下さい!」
2人で強く言うと葉山は静かになったが、新瀬に何かしているようで腕を引っ込め始めた。
「刹那さんやめて下さい!」
「蓮藤に言え」
相変わらず中身もガキか、お前は…。
過去の経験と新瀬の性格から考えて、かなり苦労してるのだと思う。
俺はドアノブから手を離した。そして。
「新瀬、避けろよ」
「えっ?」
勢いよくドアを押し開けた。(途中で鈍い音がしたが、勿論気にしない)
「ちょっと待ってろ、今準備してくるから」
「あの、先生…」
「長生きはするから安心しろ」
俺(というより、俺の血縁全員)はあまりそういうイメージないけど。
一応チャラにはした。(らしい)ネタ帳に書いといて思いの外そうならないかと思ったらそうでもなかった。葉山さん中身も外見も幼いとこがある。
蓮藤さん家は薄命というより短命。なのでrealityで雹さん琴芭さんが出てくるかは未定。出てもよくて55〜60でしょうか。でも多分出さない。(なんだったんだ、今のは)
そしてまた続く。5でやっと決まるのか…。
2005年6月中
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