墓石の前の白い花

すぐ後ろに種類はわからないけど大きな樹があり、数歩歩いたところに整備された小川がある。
本堂からはそう離れてもいないから水の入った桶を持ち運ぶのも苦ではないし、夏場は居座りたい場所だ。
あの人の墓はそこにある。元々あった家の墓に10年前の7月14日、正確には葬儀とか通夜とかがあったからもう少し後になるけどここで眠ることになった。
それなりに名の知れた人だったから今でも花束が置かれていることもあるそうだ。
そして、墓石の前には月下美人の植木鉢が置いてある。最初にここに月下美人を置いたのは飛都美ちゃんだ。
月下美人はデリケートな植物だそうだ。10年前に置いた当初、飛都美ちゃんは毎日自分で世話するつもりだったそうだけど、夏休みが終わる日に寺の人に自分達に任せるように言われたのだそうだ。
それからは毎日ではなく墓参りの度に、となっている。多分今年短大を卒業して僕のとこにくるまでは頻繁に通っていたと思う。
流石の僕でもそこまでは把握していない。
本当なら命日の14日にここに来ていたのだろうけど、14日はまだ1週間も先だ。その上今は夜が更け始める時間帯だ。
それも偏に、月下美人の開花時間に合わせてここに来たからだ。タイミングがよかったというのもあるけど。
寺だとは言え街灯くらいは設置されている。人工的な光に照らされたつぼみは膨らみ始めたばかりのようで、今夜花開くことはないだろう。
「…大丈夫?飛都美ちゃん」
「……わかりません」
あの電話があってから僕は飛都美ちゃんの顔を正面から見ていない。きっと、必死で涙を堪えている。
言葉ははっきりしているし、僕に対して感情を偽るようなことはしないけど、それは「隠したことがある」ということとは同等ではない。
この娘が何を考え何を思った上で言葉を発しているのか。結局他人に過ぎない僕にはわからないままだ。


日下部さんと飛都美。どっかに取り込みそうだ。
変換してて始めて知ったけど、蔀さんの字って「つぼみ」とも読むんだね…ほとんどノリで決めたけど。(ノリかよ)

2005年8月中


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