リモコン消失事件ファイル vol.3 事件(?)発生

『またやっちゃったよ、暗先くん』
「ぼくは暗先さんじゃないです、瀧さん」
『ああ、戯言のか。とりあえず暗先君にまたやっちゃったって伝えてくれるかな』
「やっちゃったって」
一体何を。
『大体の話は暗先くんに訊いてもらえるかな。暗先くんとひょっとしたら戯言のが来る前に着替えないとならないからね』
もしルームナンバーを間違えていたらどうしたのだろうとか、何をまたやっちゃったのかとか、それは何回目なのかとか、気になる部分は多々あったけど、流石は調川瀧と言わんばかりの一方的で特定の人間にしか伝わらない伝達法は、こんな朝7時という人によっては起きていない(実際暗先さんはうつ伏せ状態で寝ている。昨日の仕事量を考えたら相当疲れているのだろうけど、よく窒息しないものだ)時間帯でも健在だった。………健在してほしくなかった。
何はともあれ、まず暗先さんに伝えなければならない。たとえ暗先さんの睡眠の邪魔になろうが。そもそも悪いのは何かをまたやってしまった瀧さんだ。
「………」
それにしても、あの人は元気だ。昨日の夜はアルコールの効果もあってテンションが高かったけど、今だって普段の瀧さんと比べて変化がなかった。
「暗先さん」
返事はない。こういう反応も両極の中点なのだろうか。むしろ両極の片方のように思うけど。
「……何かあったの、いっくん」
起きそうにない、と思っていた暗先さんが起きだす。これが中点…なのかは多分誰にもわからないだろうけど。
「ついさっき瀧さんから内線が入ったんですけど」
「じゃあそれで起こされたんだね、きっと」
ああ、その方が「中点」っぽいかも。
「なんだかよくわからないんですけど」
「瀧さんって大概そうだから気にしなくていいよ」
「ええ、まあ、それは知ってるんですけど…」
暗先さんの場合誰であってもそうだからな…。
「またやっちゃったって言ってました」
「………」
暗先さんは怪訝そうな顔でスーツケースから歯ブラシと歯磨き粉を出している。(これは昨日酔ってそのまま寝てしまったからだ)僕と同じように何がまたなのかを考えているようだ。
「それで、暗先さんとひょっとしたらぼくが来るかもしれないって言ってました」
「…あー!瀧さんまたやっちゃったのかなひょっとして!」
だから何がなのかわからないのですが。
ぼくをほったらかして「ああもうあの人は!」と言いながら洗面所に向かう暗先さん。言葉の割に急ごうという感じはしない。
歯を磨きながら洗面所から戻ってきた暗先さんは片手で着替えとタオルをスーツケースから取り出す。「急ごうという感じはしない」は「急ぐどころか自分の身支度で忙しい」に訂正した方がよさそうだ。
「……暗先さん」
再び洗面所に入る暗先さん。顔を出したのは2分後で、歯ブラシは持っていなかった。
「いっくん、瀧さんに衣類は片付けるように言ってもらえないかな」
「瀧さんは何をまたやっちゃったんですか?」
「あの人リモコンなくすの得意なんだよ」
それだけ言ってまた引っ込んだ後、聞こえてきたのはシャワーの音だった。


カワサキリュウスケといー。やっと初戯言です。なんかいーが似てないけど…つうか呼び方は「いー」になったのか。
部屋は瀧さんが「安上がりだし楽しいし3人で1部屋でいいじゃないか」と言ったところを男2人がそれはダメだろうと分けたというのが現実だと思います、この3人の場合。瀧さんってそんな人。でも分けて正解だよこれ。(理由は次回)
頭の部分だけでまだ続きます。地味に長くなりそうな気がしてならない。

2005年11月中


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