リモコン消失事件ファイル vol.3 1と2

「最初は姫路の雑誌社に売り込みに行った時でさ」
バスルームから出てきた暗先さんの第一声はそれだった。
「帰ってきたら留守録が入ってたんだよ。瀧さんは携帯とフリーメールしか連絡手段持ってないから。何かと思ったら泊まった民宿の部屋のリモコンがないから荷物を探してくれって言うんだ。でもいくら探しても見つからないんだ。それで瀧さんに訊いてみたら」
「持ってたんですか?」
「脱衣所から借りてきたドライヤーまで持ってきてた」
「……気づかなかったんですか、あの人は」
「帰る時とにかく何でもつめこんでたんだよ。多分今もカオス状態だよ、瀧さんの部屋は」
「カオスって」
どれだけ凄いんだ、調川瀧。
「部屋自体は大丈夫なんですか?」
「カワサキリュウスケで毎回書かせてもらってる雑誌社の編集さん…大西さんっていうんだけど、その人に言わせたら『自分の物と備品がどうやったらこうなるんだって程にちらかってる』っていうだけで、何かを壊すってことはないよ。『だけ』でもないだろうし、だからいいってこともないんだろうけどね…」
「家もカオスだったりするんですか?」
「家は僕が掃除するし、瀧さんにも掃除させるからそこまで酷くはないと思うよ。どちらにせよ食べ物を放置することはないからいい方なのかもしれないね。世の中もっと凄い人もいるようだし。こういう時瀧さんがわざわざ隣に引っ越してきてくれてよかったんじゃないかなって思うよ」
スーツの上着を着た暗先さんが備え付けの机に置いてあった鍵を取って部屋を出る。もちろんぼくもそれに続く。
「ゴミもちゃんと自分で出すからよかったよ。最近はついでに頼むよってことで僕が自分の部屋の分と一緒に捨ててるけど」
暗先さん、密かに瀧さんに使われてる。
「それでも、瀧さんなりに整頓されてるみたいだよ。他の人間からしたらそうは見えないけど」
「それは暗先さんでもですか?」
「僕は……やっぱり、よくわからないかな」
それで、と暗先さんは続ける。
「2回目は大阪のホテルで、そろそろ出ないと特急に間に合わないって言うのに瀧さんが出てこなくて。何してるのかと思って部屋に入ったら掛け布団はひっくり返ってるし紙が散乱してるし服は散らかってるし。何してるんですかって訊いたらまたリモコンがないって言うんだよ。それも今度は自分の荷物は全部調べたって。結局ボーイさんを呼んで3人で探してベッドの下から見つけたよ。特急は間に合わなかったけど。それにしても弓知さんってボーイさんもいるんだね」
「タクシードライバーのですか?双子のですか?」
「あのちょっと危ない運転する人の弟だって」
つまりタクシードライバー光平さんの方か。
弓知が本来医者の家系だと知っているぼくにとっては意外なような、当然のようなってところか。それにしても。
「なんでベッドの下にあったんですか?」
「僕か瀧さんが蹴飛ばしたって考えるのは自然なんだそうだよ」
特に目立って変わった理由でもなかった。

「ところで、その1回目って同じ部屋だったんですか?」
「あの頃は瀧さん無職だったから余裕なかったんだよ、瀧さんは性別わかりにくいけど一応は分けた方がいいかなとも思ったんだけど。2回目は別々だね。部屋が凄くなるのもわかってたし、1回目の頃よりはお金もあったし」


過去2回をとりあえず。2回目のは実体験だな…小学校の修学旅行で。遅れなかったし同室だったりおさんと2人で見つけましたが。
ボーイの弓知さんは明尋さんで。この場で考えました。弓知は光とかそっちの縛りなので考えるのは比較的楽です。
肝心な中身は次から。まだ延びるのか。しかも中途半端に短そうだ。

2005年12月中


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