新瀬と時雨に見送られながら葉山の家を出て数時間。
休憩はなかった。そもそも葉山の家に寄ってから来たのだから必要ない。そして着いた。着いてしまった。
「なかなかいい所だろう。ここからは見えないが、庭も広いし高台だけあって眺めもいい。ちなみに裏は竹林になっていて川が流れている」
「テメェが絡んでなけりゃもうちょっとマシになってたかもな…」
引っ掛かる。そもそも葉山刹那のその存在自体が奇妙だ。
「さあ、早く荷物を降ろせ。蓮藤はいいかもしれないが、こっちは愛知に行かなければならない」
「じゃあ送迎なんてしなきゃよかっただろ…」
「宿代を無駄にする気か」
「少なくとも俺より金持ちだろ」
「なるべく早く、と思っていたら重なったんだ。どっちも外せないからこうなった」
「こっちは外していいものなんだが」
「さあ、早く降ろせ」
「話を逸らすな」
そもそも終わってんじゃねぇかよ。確かに荷物自体が少ないから時間がかかる事はないだろうが。
いや、憂が寝ていた。車内で、ましてや他人が運転した車で寝るなんて珍しい…。
「……蓮藤霜夜がお姫様抱っこ」
「しねぇよ。憂」
普通にゆすって起こした。
「さて、あと俺に出来ることは早々に立ち去る事だけだ」
「お前の言葉は当てにならねぇんだよ」
「前払いは出来なかったからこれを使え。余計に入れておいたから甘夏もち頼んだぞ」
「結局そこかよお前」
「明日の午後迎えに来る」
封筒を投げ渡された時には既にヤツは車の運転席だった。そして、颯爽と走り去って行った。
「……どうしようもねぇのか、これは」
「腹をくくるなら早いうちがいい」
「わかっちゃいるんだけどな…」
葉山刹那だから、そこは。…具体的な事はどうも、無理矢理消去したようだが。
仕方なく、俺は宿に入ることにした。

「お客さん、お荷物を忘れてますよ」
「荷物?」
いや、これで全部なんですけどと言おうとしたところに差し出されたのは例の紙袋だった。
「……あの野郎」
「何それ」
「俺も知らねぇ」
むしろ、知りたくねぇ。


多分耐えられません。(軟弱だから)(いやまずそこかよ)
本当にそんな場所でした。知ってる人は…とある会社の保養所だから親戚にその会社の人がいたら知ってる人もいるのかな、これは…。
そんなに長くはないと思ってたんだけど、そうでもなさそうな気がしてきた。

2006年3月中


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