ラーメン激戦区のおでん屋台

「おでん、ですか」
私でも容易に想像出来るような絵に描かれたような屋台だ。客はいない。話す内容を考えるとその方がいいだろう。
「お嫌いですか?」
この人の場合、語尾が高くなるのは生まれた土地で身につけた癖ではなく意図的なものと言った方が正しいようだ。よく聴いていると大半が相手に問いかける台詞で構成されている。
「この辺りはラーメン屋が多いそうなのでそっちになるかと思ってました」
「最近よくラーメンを食べされられていたのでおでんを食べたくなりまして、変えますか?」
「いえ。ここで構いません」
人の多い場所は苦手な上に、最近は出不精が3人に増えたというのに定期的に食料を補給する人材がいない為に、買い置きのインスタント食品ばかり食べている。丁度麺以外の物を食べたいと思ったばかりだ。
気付いたら野菜ばかりを頼んでいたらしく、野菜が好きなんですね?と言われた。元より蛋白質はあまり好きではないし、最近の食生活から炭水化物を避けていたのかもしれない。
「今日はどうされましたか」
「1つ、お願いできますか?」
九条冬茉はリバース・サイド創成期からの上客だ。『毎月定額を支払う代わりに、怪盗クイーンの出没情報を入手した際は情報を速やかに選別し早急に報告する』という契約だが、要となる怪盗クイーンが精力的に活動してないからこそ成り立っているとも言える。
これで毎週1回定時に活動されたら私は他の事が出来ず破産しているに違いない。定額は維持費にはなっても生活費にはならない。
また、契約の範囲外の情報摘出は別料金となるが、九条さんからの依頼はリバース・サイドの特性である『噂』からは離れたものが多い。何年か前の依頼で各国のオークションサイトに張り付かなければならなかった事があったが、ああいうのはうちには向いてない。
その時だって電話口での依頼だったから、今回は更に面倒な事を頼まれる可能性は高い。
「現在私はリバース・サイドの運営には携わっていません。私から現在の運営者に伝えて、判断は彼らに任せる事になりますがよろしいですか?」
仕事場を変えてほしくて2人に交渉した結果が顧問就任だった。あまり、というよりほとんど変わってない。最後はもうどうにでもなれと思っていたことだけはよく覚えている。
「それなら、その方がこちらに来た方が手間が省けたんじゃありませんか?」
「…いえ、久しぶりに外で食事するのもいいかと思いまして」
外に出ているのも悪くないものだと知ったのは割と最近だ。
「クイーンの予告状の内容はご存知ですよね?」
「ドイツのあべこべ城で10年に1度行われる仮面舞踏会の日、ピラミッドキャップを盗みだす」
「先日の『福山甘露』みたいなお手軽な場所だったらいいのですが、流石にヨーロッパ社交界は日本の一般市民が突然参上するには少し糸が細すぎるでしょう?」
オークションで豪華客船の宿泊券を高額取引していた人が何を言うか、とは思ったが口には出さなかった。
「そこで、ささやかなもので構いませんので、繋がりを作っていただけませんか?」
滅茶苦茶で曖昧な要求はいつまでも変わりそうにない。


噂に特化した、というのはネウロの方で少し出した程度で、奪還屋さんの後からそうなったというのが大きそうだ。興味が湧いたのが噂だった、という程度でしょうけど。
奪還屋1巻からどれくらい経ってるんだろう。サーカスでRD盗難から3年だか1年だと思ったからなんだかんだで5年くらい経ってるのかもしれない。
これじゃ流石に「出て行け」とも言いたくなる。2年くらいは居座ってるのかあの2人。
思ってた以上に長い上に続いてしまいました。続くのはまだしも長い。
時雨が長いのか。前こんなに長かったっけ…性能からして解説役にはなりやすいだろうけど、それでももっと短くまとめてくれた気がするな…。


2008年3月〜5月


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